宇和島のダ・ヴィンチ 河野一水

河野一水

私が一水(いっすい)さんと出会ったのは、今から25年ほど前にさかのぼる。もともと私の家業である眼鏡店の祖父の代からの顧客であったが、年の離れた友人として本当におつきあいするようになったのは、当時私が「宇和島バードマップ(野鳥地図)」なるものを制作した際、イラストマップの不正確さについてお叱りを受けたのがきっかけだった。

それからは、天神町のユニークなアトリエ兼自宅で、宇和島の歴史や文化、人類の未来についてなど深夜にいたるまでさまざまなお話をうかがい、その博覧強記ぶりにはいつも驚かされたが、今にして思うのは、一水さんは誰よりも深く、宇和島の町と宇和島の人たちを愛していたこと。そして、まやかしの権威や権力に対しては、一貫して抵抗の姿勢を通して、永遠の青春を生きたということである。

「芸術」とは、ひたすら「心楽しい形式をつくる試み」(H.リード)であり、そのためには現実を見つめ不要な価値や既成概念の否定・破壊がともなう。それゆえ、地位や名誉、金といった世俗から一切離れて、より「知的自由」に生きようとする人たちのことを「芸術家」と言えよう。 宇和島の偉い人たちの中で「先生」と呼ぶのではなく、一水さんと「さん」付けで呼べるのは、実に私にとっては一水さん以外にいなかった。反権力をかかげる芸術家が、有難く賞をいただくといった笑止なことに終生無縁であり、内外で称賛された「牛鬼の一刀彫り」にしても、民芸品ではなく、現代アートとして評価されたのは衆知の事実。

奇しき縁あって、2004年、2005年に遺作の写真を紹介する展覧会をお手伝いしたが、これは絵画・音楽・木彫・写真とあらゆるジャンルにマルチな才能を見せた「河野一水の世界」の、ほんの一部分に過ぎなかったのである。一水さんは、宇和島の作家の中ではたぐいまれな、ダ・ヴィンチと同様に科学や数学に強い、本物の芸術家であった。

※《「四季の随想 宇和島展」に寄せて(小冊子・2004年9月)》に加筆・訂正して転載しました。

河野一水 (こうの いっすい  本名:河野辰男)  プロフィール

大正5(1916)年〜平成16(2004)年 南宇和郡御荘平城(みしょう ひらじょう)生まれ。幼少期に宇和島市に移り和霊町で育った。昭和8年宇和島運輸株式会社に入社の後、石崎百貨店、宇和島自動車を経て、同24年から木彫作家として活躍。一刀彫り作品「牛鬼」「闘牛」は民芸品とは一線を画した現代アートであり、海外でも紹介され評価が高い。宇和島市内でみられる“牛鬼”をモチーフにした絵画、民芸品、モニュメントなどの多くが、なんらか河野さんの影響を受けているといわれる。
その特異な風貌からもうかがえるように、木彫のほかに写真・絵画制作はじめ多彩な才能を発揮。なかでも、歴史に関する著書「ふるさとの想い出写真集 明治・大正・昭和/宇和島」(国書刊行会 1983年)は、郷土のぼう大な古写真から整理、編集した労作であり、宇和島の大きな遺産となった。平成16年2月19日逝去。享年89歳。

牛鬼 青春666

河野一水作 牛鬼           河野一水作 青春 (「四季の随想 宇和島」から)

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宇和島のダ・ヴィンチ 河野一水」への3件のフィードバック

  1. 木彫りの牛鬼の事を調べていたらこのサイトにたどり着きました。河野氏の牛鬼や、河野氏自身の情報をネットで調べても中々でて来ませんね。

    • 「安い、大きい、見場(外見)がいい」と三拍子揃わないと宇和島の人は買わない、と生前の河野さんがおっしゃっていた通り、高畠華宵の美人画同様、ほとんどの河野作品は市外へ流出しています。その要因としては、予約を受けてから制作する完全オーダーメイド・システムであり、晩年は体調不良から作品が制作できない状態でしたから。今も、各書店の郷土コーナーに必ず置かれている「愛媛県の歴史」(山川出版社)には、一水・作として牛鬼一刀彫りが表紙カバーになっています。河野さんの作品や資料の一部は当方で保管しております。初期から晩年までの作品が見られる宇和島で唯一の場所は、新町の「玉置ネーム店(玉置美耶子さん 88歳)」ですが、ご希望なら紹介しますよ。

  2. 返信ありがとうございます。その本はちらっと読んだ、いえ、目を通しただけですが、表紙が印象的で記憶に残っております。やはり河野氏の牛鬼でしたか。

    河野氏の作品、是非見てみたいです。私は今東京に住んでおり、すぐ行くという事は難しいのですが…。

    河野氏の作品を閲覧できる資料、何かご存じでしょうか?

    私は妖怪・魔除け等の郷土玩具を集めており、最近自分のコレクションについて調べております。ネットでは作者や年代等の情報はあまり出てこないですね。本も納得できる物は見当たらず。やはり、現地へ行くのが一番だとは思いますが。

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